後片付けをして、残りのキーマカレーをタッパーに入れて持ち帰る。

「夕飯作らなくていいから助かる~」

 と、柚木さんがいっぱしの主婦のようなことを言っていた。

「あのさ、文化祭前にこむぎちゃんが聞いたことあったよね」

 すっかり暗くなった廊下を歩きながら、みくりちゃんがつぶやく。非常灯が月明かりみたいできれいだから、夜の学校は嫌いじゃない。

「なにを?」

 マフラーとコートで防寒していても、吐く息が白くなる。手をこすってあたためながら答えた。

「私が最初に、部活に入らなかった理由」

「ああ、うん」

 みくりちゃんのハンバーガー事件のあと、入部しないか誘ったときに「料理部にはこむぎちゃんだけがいたほうがいいと思う」と一度断られたんだっけ。
 文化祭のときは、菓子先輩が拒食症じゃないかと疑っていて、それでみくりちゃんが遠慮したんじゃないかと思っていたのだけど……。

「あのときはね、百瀬先輩って人当たりがよくてにこにこしてるけど、本当の気持ちは誰にも見せないようにしている人なんだなって思ったんだ」

「えっ、菓子先輩が?」

「あ~それ、あたしも思った。壁がある……っていうほどのはっきりしたものじゃないんだけど、すごくやわらか~く距離をとってる感じっていうか。先輩後輩の関係だし、あたしはまだ付き合いも浅いからそうなのかなって思ってたんだけど」

 隣を歩いていた柚木さんも同意する。

「そうなんだ……」

 すごく遠慮なく心の内側まで入ってくる人だと思っていたから、二人がそう感じていたなんて意外だった。

「さっき百瀬先輩のお母さんが亡くなってるって話を聞いて、なんだか納得したんだ。きっと百瀬先輩は、誰にも自分のことで心配をかけたくなくて、誰にも傷ついて欲しくなくて、すごく慎重に人と接するようにしていたんじゃないかって」

 菓子先輩は、いつも近くにいた私にさえ味覚障害だということを気付かせなかった。
 自分の悩みや苦しみは、いつだって周りに感じさせない人だった。