「嫌いな野菜……甘くてまろやか……」

 私の脳裏に、部活に入った日の思い出が浮かんできた。初めて浅木先生のお店に行ったあのとき、浅木先生は菓子先輩に何と言ったんだっけ? そして、文化祭のときに菓子先輩が不自然に却下したものがあったような……。

「みくりちゃん、柚木さん、ありがとう。私、分かったかも……」

 ばらばらになっていたピースがかちゃりとはまった気がした。

 今までぼんやりとしていた菓子先輩のお母さんの輪郭が、はっきりとした形になって自分の中に流れ込んでくる。
 お母さんのエプロンの裾を掴んだ私はいつの間にか小さい菓子先輩になっていて、そのあたたかい胸にぎゅうっと抱きついていた――。

 ふと気づくと、呆けた顔でぼうっとしている私を、二人の優しい眼差しが見下ろしていた。

「良かったじゃん。じゃあさっそく、これから第二段を作る?」

「まあまあ。今日はもう時間も遅いから、明日にしようよ。こむぎちゃん、その隠し味は明日用意するんでしょ?」

 腕まくりする柚木さんの肩を、みくりちゃんがぽんと叩く。

「うん。明日また手伝ってもらっていいかな」

 もちろん、と笑顔を見せる二人にも、さっきの光景を見せたかったな。とてもふしぎなことだけど、菓子先輩のお母さんがとても近くにいて、応援してくれているような気がする。自分に都合のいい思い込みかもしれないけれど、それでもいいや。