「私もこれはお母さんの味とは違うと思う……。でも、他に甘くする方法ってあるのかな? はちみつを入れるとかりんごを入れるとかも考えたけど、それだとレシピを変えちゃうことになるし」

「レシピに書いてないけど、実ははちみつを入れてた、とかもありそうじゃない?」

「でも菓子先輩のお母さん、そういった細かい変更もぜんぶレシピにメモしてる人だったんだ。いつも作ってたメニューだったら余計、書き忘れるのは考えにくいと思って」

「なるほど……。確かにそうだね」

 甘みを出すようなもの。カレーに入れてもおいしいもの。飴色玉ねぎ、りんご、はちみつ……あとはなんだろう。いい線は行ってると思うんだけど、決定打に欠けるし、書き忘れる内容とも思えない。

「あ、ねえ! わざと書かなかった、とかは? ……ミステリーの読みすぎかな」

 柚木さんが指をパチンと鳴らす勢いで身を乗り出した。最近ミステリー小説にはまっているらしい。

「でも、なんのために?」

「まあ、そこだよね……」

 書き忘れたんじゃなくて、あえて書かなかった――。
 
 なんとなく今、お母さんのエプロンの裾を掴めそうな気がしたんだけど。

「こむぎちゃん、こういう時こそプロに聞いたら?」

「あ、そうか」

 みくりちゃんの一言で、浅木先生にまだキーマカレーの報告をしていないことを思い出した。
 菓子先輩の家での出来事と、キーマカレーの味で悩んでいることを端的にメールに書く。

 返事が来るのは早かった。もしかしたら、ずっと気にしてくれていたのかもしれない。