「あのね、実は……」

 私は菓子先輩の味覚障害のことは伏せたまま、キーマカレー作戦のことを話した。浅木先生に聞いたこと、菓子先輩の家に言ったことも言えるところだけ。

「なるほど。お母さんの味を再現すれば、百瀬先輩の悩みが解決するかもしれないんだね」

「うん。うまくいくか分からないんだけど、とりあえず今思いつくのはそれくらいだから、やってみようと思って」

「で、実際試してみたはいいけれど、お母さんの味とは違うって言われたってことだよね?」

「そうなの。レシピ通りにやってるんだけど……。甘くてまろやかでコクがあるって言ってたから、玉ねぎを濃い飴色にして甘みを出したり、入れるトマト缶を完熟トマトにしたりしてみようかなと思ってて」

「これからそれを作るんだよね? 手伝うよ」

「じゃあ、普通のやつと二パターン作って違いを比べてもみるのはどう?」

「あ、それ、いいかも」

 お鍋を二つに分けて、普通バージョンと甘味バージョンを作った。ドキドキしながらみんなで試食する。

「どうだろう?」

「う~ん……。甘みが増したと言われればそんな気もするけど、食べてすぐはっきりと分かるほどではないよねえ」

「そうだね。なんとなくまろやかになった感じはするけど、そこまで違いは感じないかな」

 言われて分かる程度の違いだったら、何年もキーマカレーを食べていないお父さんもおばあちゃんも気付かないと思う。もっとはっきりと分かる甘みとコク、それを出したものでないとお母さんの味とは言えない。