「やっぱり、何か見落としてることがあるんじゃないのかなあ」

 週明けの放課後。私は調理室でレシピを前に考え込んでいた。レシピは菓子先輩に頼んでコピーさせてもらったものだ。

 レシピの分量も手順も守っているのに、何が違うんだろう。

「とりあえず、レシピの分量は変えないで甘くする方法を探ってみよう」

 よし、と立ち上がってエプロンの紐を締め直したとき、調理室の扉がガラッと開いた。

「なんで一人で頑張っちゃうのかな、こむぎちゃんは。あれほど何かあったら相談してほしいって言ったのに」

「ほんとだよ、水臭いじゃん」

 そこには、眉をつりあげて腰に手を当てたみくりちゃんと、前髪をかきあげながら少し怒った声で呟いた柚木さん――。

「二人とも……、今日は月曜だから活動日じゃないのに、どうして」

 唖然としながらつぶやいた私にかまわず、二人はずいずいと調理室に入ってくる。

「そりゃあ、今日一日のこむぎちゃんの様子を見ていれば分かるって」

「授業中もそのレシピ取り出してはメモ書き込んだりしてたもんな」

 こっそりしていたつもりだったけど、バレていたのか。

「こむぎちゃん、大事なこと忘れてない? 私たちにとっても菓子先輩は恩人なんだよ?」

「それに少しの期間だけど、部長と部員の関係でもあるじゃんか。関係ないとは言って欲しくないんだけど」

 言いながら、すっかり慣れた様子でエプロンと三角巾を身に付けていく二人。今はそのエプロン姿が頼もしい戦闘服に見える。