「じゃあ私、台所をお借りして、お昼ごはんを作ってもいいですか?」

「えっ、こむぎちゃんが作ってくれるの? ……でも、私」

 あまり食べられないことを気にしてくれたのだろう、菓子先輩がうつむく。

「いいんです。一口だけでも食べてもらえたらと思っただけだから。あとほら、おばあちゃんにお礼もしたいし」

「……うん」

「そんな気を遣わなくてもいいんだけども、ありがとうねえ。台所も材料も、好きに使ってくれてかまわねえから」

 それは悪いのでスーパーに買い出しに行こうと思ったのだが、コンビニもスーパーも徒歩圏内にはないそうだ。「このへんはコンビニよりコイン精米機が多いから」と言われたのだけど、本当だろうか?

 午前中は、菓子先輩に付き合って少し勉強した。
 集中している受験生の前だと、シャーペンの音すら遠慮がちになってしまう。
 胃が痛くなりそうだったので早々に撤退して台所を貸してもらった。

 リビングキッチンと呼ぶより食堂と呼ぶほうがしっくりくる、ささやかなスペース。年季の入った使いやすそうな調理台。よく磨かれたシンクとコンロ。整理された大きな食器棚と冷蔵庫。

 台所ってその家の人柄が出る場所だなと思う。おばあちゃん、お母さん、菓子先輩と受け継がれてきた台所は、丁寧に使い込まれていてあたたかみがあった。お鍋あたりが付喪神になっていそう。