「……どうして?」

「こむぎちゃんは分かりやすいって言ったでしょう。私がおじやを食べているとき、おばあちゃんとおんなじような顔してるんですもの。なんだか様子もおかしいし」

 自分ではポーカーフェイスができていると思っていたのに。

「こむぎちゃんの前では、ずっと頼りになる先輩でいたかったな。こんなふうに心配かけるんじゃなくて……」

「ごめんなさい。黙って聞きだしてしまって」

「いいの。隠しているのはつらかったから、今はちょっとだけ、ほっとしてるの……」

 お母さんの話をしてもいいかな、と菓子先輩が尋ねる。私が黙ってうなずくと、菓子先輩は静かな口調で語り始めた。

「私のお母さんはね、お父さんと結婚して農家に嫁いできて、おじいちゃんとおばあちゃんの農作業を手伝っていたの。
 もともと自然が大好きだったから苦にならなかったみたいで、いつも泥だらけになりながら楽しそうにしていたわ。
 私も田んぼや畑が大好きで、夏にはトマトもぎりを手伝ったり、こっそりトラクターに乗せてもらったりしたの」

 写真でみた、あの上品な美しい人が農作業と思うと意外だったが、中身が菓子先輩と思うと納得できた。

「お母さんは、うちでとれたお野菜やお米を使って、お金をかけずに手間をかけておいしいものを作る天才だったわ。私はお母さんの料理が大好きで、物心ついたときからそばでお手伝いをしていたの。
 家族も親戚も、近所の人もお母さんの料理が大好きで、たくさん作ってはおすそわけをしていたわ。お礼を言うほうも、言われるお母さんもとても嬉しそうな顔をしていて、私もいつかお母さんみたいに料理で人をしあわせにしたいって思ってた……」

 ぽつりぽつり。やさしい粉雪みたいに、この部屋に菓子先輩とお母さんの思い出が積もってゆく。淡く光る真っ白な、宝物みたいな思い出――。