「やっぱり……」

 浅木先生にお母さんの話を聞いたときに感じたこと。菓子先輩はお母さんの味を再現していたのではないかということ。

 味見ができないということは、何かのレシピをそのままの分量で作らないと失敗してしまうということである。菓子先輩くらいの腕前だったら感覚でなんとかなるかもしれないが、人に食べさせるものでそんなリスキーなことはしない気がした。

 しかし、部活での菓子先輩は料理本を見てはいなかった。
 そうなると残りはひとつ。長年作り続けた独自のレシピを、分量まで覚えているということ。

 菓子先輩は、味覚を失うまでの年月で何度も作ったお母さんの味をガイドに、おいしいものを作っていた。

「菓子先輩……」

 お母さんのコメントに混じって、菓子先輩の落書きがまじっている。子供のころから一緒に料理をしていたのかな。

 そんなお母さんが自分と料理している最中に倒れるなんて、菓子先輩はショックとお母さんへの罪悪感で、自ら味覚を封印してしまったのだろうか。いくら菓子先輩がおいしいものを作っても、もうお母さんには食べてもらえないから――。

 他のページも見ていると菓子先輩の足音がしたので、レシピ帳を置いてあわてて布団の上で正座した。