なでようと思って手を伸ばすと、さっと避けられた。菓子先輩のうしろに隠れながら、ちらちらと私の様子を伺っている。

「甘えん坊なんだけど、人見知りで警戒心が強いの。でも初めての人のことは気になるみたいで、自分からは近付かないんだけど構ってくれるのを待ってるのよ」

 なんか、それって。

「ふふ。なんだか、誰かさんに似ているでしょう? こむぎちゃんに初めて会ったときも、この子に似ていると思ったのよね~。だから気になってしょうがなかったの」

 自分でも似ていると思ったことは言わない。猫は私と違って、かわいげのない性格でも許されるからうらやましい。

「さっちゃんっていう名前なんですか?」

「ううん、本名はサバ子」

「えっ?」

「サバトラだから、サバ子。私じゃないわよ、おばあちゃんが付けたのよ。恥ずかしいから私はさっちゃんって呼んでいるの」

 うわあ、なんだか生臭い名前……という顔を隠せなかった。菓子先輩が顔を赤くして言い訳をしている。

「サバ子~。サバ子~。サバ子はかわいいねえ」

 おばあちゃんは孫を見るような目でサバ子のあごをなでている。まあ、本人とおばあちゃんが気に入っているならいいんじゃないだろうか。どんな名前でも。

「うちはみんな猫好きなのよね。おばあちゃん、こむぎちゃんのこともきっと気に入ったわよ。うちの子になればいいのにねえって言われるわよ、きっと」

「まさか、そんな」

 捕まって生臭い名前をつけられるところまで想像した。優しくしてくれたおばあちゃんになんて失礼なことをしているんだ、私は。

 サバ子をなでていたおばあちゃんがくるりと私を見たのでビクッとした。

「お風呂も沸いているからね。こむぎさんが最初に入りなさいね。お布団は菓子ちゃんの部屋に敷いていいかい?」

「は、はい。ありがとうございます」

 菓子先輩は私の態度を見て笑いをこらえていた。あんなに心配していたのに、もう。こっちの気も知らないで。

 サバ子が私を見てにゃーと鳴いた。