「何か手伝いますか」

 と台所にいるおばあちゃんに声をかけたのだが、

「いいからいいから。それより菓子ちゃんの様子見てあげてねぇ」

 と断られた。勝手に部屋に入るのは気が引けたが、一人でいるのも落ち着かなかったのでお邪魔させてもらうことにした。

 そろそろと襖を開けると、布団の上で寝ている菓子先輩が見えた。

 菓子先輩の部屋が和室なのも意外。ベッドじゃなくてお布団なのも。八畳くらいの部屋は掃除がゆきとどいていて、勉強机と本棚もこざっぱりと整頓されている。
 菓子先輩のキャラ的にかわいい小物や雑貨がたくさん置いてあるのかなと予想していたのだが、おじいちゃんの部屋ですかっていうくらい女子高生らしい物がなにもない。

 寝ている菓子先輩を起こさないように覗きこむ。顔はまだ青白いけれど、これでも昨日よりはマシなのだろう。いつもぷるぷるしているさくらんぼ色の唇も、色をなくしてかさかさしていた。

 なんだか痛々しくて、あまりじっと見てはいけないような気がして、目をそらした。
 ふと、机の上のノートに目が留まる。手に取ってみると、それは授業ノートではなくレシピ帳だった。手書きの、かなり使いこまれた、菓子先輩の字ではないレシピ帳――。

 ページをめくろうとしたとき、

「う……ん」

 菓子先輩が小さく声をあげながら、寝返りを打った。

「菓子先輩……? 大丈夫ですか?」

 起きるのかな、と思っておそるおそる声をかけてみた。

「うーん……。おばあちゃん?」

「小鳥遊こむぎです」

 私の名前を聞くと、菓子先輩はかっと目を見開き、すごい勢いで起き上がった。