「はい~、お客さんかね?」

 廊下の奥のほうからのそのそと、子熊のようなかたまりがやって来る。一瞬ビクッ! としたが、よく見ると腰のまがったおばあちゃんだった。茶色のふさふさしたベストのせいで見間違えた。

「こ、こんにちは。菓子先輩の部活の後輩の小鳥遊こむぎです……。今日はお見舞いに来ました。これ、つまらないものですけど」

 以前柚木さんの家にお見舞いに行ったときにスコーンを持って行ったので、今回はカップケーキを焼いて持ってきた。果物籠は大げさになってしまう、という菓子先輩の言いつけはちゃんと守っている。

「あら~、菓子ちゃんの! それは遠いところどうもねえ。上がってくださいな」

 おばあちゃんは、カップケーキの袋を開けて「おいしそう。いい匂いねえ~」と喜んでくれた。

「じゃ、私はこのへんで」

 とおばさんは腰をあげた。

「あ、わざわざどうもありがとうございました」

「なんでぇ、木村さん、案内してくれたんけ? じゃあ待ってな、白菜持ってくっから」

 おばあちゃんはまるまる太った白菜を渡して、木村さんは白菜と犬を抱えながら帰って行った。田舎のおばちゃんはたくましい。

「じゃあ、そこに座って待っとってなあ。お茶淹れるから」

 家に上がると、広い畳の部屋に通された。テーブルが宴会ができそうなくらい大きい。

「あの、その前に仏壇にお線香を上げてもいいですか」

 私が訊ねると、おばあちゃんは目を細めてくしゃっと笑った。

「ありがとうねえ。それなら、襖を開けた隣の部屋だよ」