住所を見せると、おばさんはん~っと眉間を寄せて紙を凝視した。犬がしっぽを振りながらこちらを見ているので、なでさせてもらった。人懐っこくてかわいい。

「ああ~、百瀬さんちね。昔はこのへんの地主だったから、おうちも大きいのよぉ」

「へえ……」

 バスの運転手さんも大きい家と言っていたし、やっぱり菓子先輩はお嬢様だったのか。

「でもバス停からだったら、もう通り過ぎてるはずだけど?」

「ええっ……。全然気付かなかった……」

「ちょっと分かりづらいのよね。一緒に行ってあげる」

 恐縮する私に、いいのいいの、どうせ散歩コースだからと言っておばさんは案内をしてくれた。

「ここ、ここ。この細道を入って行くの。確かに道路からだと家は見えにくいかもねえ」

 隣の家と竹林の間にある細い道を入ると、急に拓けた土地が現れた。

「家、でかっ」

 私の中で菓子先輩は、洋風の豪邸に住んでいて、ふりふりのネグリジェを着て紅茶を飲んでいるイメージだったのだけど、これはちょっとイメージとは違っていた。

 瓦屋根に歴史を感じる、平屋の日本家屋。ガレージにはトラクターが何台も置いてあって、家の横にはトトロで観たようなポンプ井戸がある。

 コケーッ、コケーッとどこからか鶏の声がするけれど、確かめに行く勇気はない。

「百瀬さ~んっ、お客さんよ~っ!」

 なぜか庭の中までついて来てくれたおばさんが、玄関をガラガラと開けて声を張り上げる。

 鍵はかかっていないのか? とびっくりした。田舎特有の大らかさなのだろうか。おばさんは上がり縁に座り込んでいるし、犬は勝手に庭で遊んでいるし。