「菓子ちゃんは――甘さもちょうど良くておいしい、と言ったよ。僕はそれがケークサレであることを菓子ちゃんに話して、事情を問い詰めたんだ。菓子ちゃんはそのとき、自分が味覚障害だということ、お母さんの死が原因であることを打ち明けてくれたよ」
あんなに料理を愛している先輩が味覚を失うということ。大切なものを次々と失ってしまったつらさを、私は想像することしかできない。神さまはどうしてそんな残酷なことをするんだろう。
「菓子ちゃんは、何を食べても味を感じない、砂をかんでいるような気持ちになるんだと言っていた。飲み物だけは、どれも水のように感じるからふつうに飲めるのが救いです、と。家では野菜ジュースやスムージーで栄養をとっていると言っていた」
だからお茶はふつうに飲んでいたのか。自分が飲んでも紅茶の味は分からないのに、菓子先輩が高価な茶葉をいろいろ持ち込んでいたのは――もしかして私のためだったの?
おいしい料理を作るのも誰かのため。菓子先輩はいつだって、自分のためじゃなく誰かの幸せのために動いていた。私はまだ菓子先輩に、その十分の一の幸せだって返せていないよ。
「でも、飲み物で栄養をとっていたから今までは倒れなかったんですよね? どうして今回は急に……」
センター試験のために根をつめて勉強していたとしても、菓子先輩が倒れるほど栄養補給を忘れるとは考えにくい。
「実は、菓子ちゃんが一年生のこの時期にも、しばらく学校を休んだことがあってね。お母さんの一周忌だと言っていたけれど、それにしてはずいぶん長かったし、その後登校してきた菓子ちゃんはやつれているように見えた」
すべてが同じ時期、一月に起きている。菓子先輩の病気にお母さんの死が関係しているなら、今回倒れたのもきっと――。
あんなに料理を愛している先輩が味覚を失うということ。大切なものを次々と失ってしまったつらさを、私は想像することしかできない。神さまはどうしてそんな残酷なことをするんだろう。
「菓子ちゃんは、何を食べても味を感じない、砂をかんでいるような気持ちになるんだと言っていた。飲み物だけは、どれも水のように感じるからふつうに飲めるのが救いです、と。家では野菜ジュースやスムージーで栄養をとっていると言っていた」
だからお茶はふつうに飲んでいたのか。自分が飲んでも紅茶の味は分からないのに、菓子先輩が高価な茶葉をいろいろ持ち込んでいたのは――もしかして私のためだったの?
おいしい料理を作るのも誰かのため。菓子先輩はいつだって、自分のためじゃなく誰かの幸せのために動いていた。私はまだ菓子先輩に、その十分の一の幸せだって返せていないよ。
「でも、飲み物で栄養をとっていたから今までは倒れなかったんですよね? どうして今回は急に……」
センター試験のために根をつめて勉強していたとしても、菓子先輩が倒れるほど栄養補給を忘れるとは考えにくい。
「実は、菓子ちゃんが一年生のこの時期にも、しばらく学校を休んだことがあってね。お母さんの一周忌だと言っていたけれど、それにしてはずいぶん長かったし、その後登校してきた菓子ちゃんはやつれているように見えた」
すべてが同じ時期、一月に起きている。菓子先輩の病気にお母さんの死が関係しているなら、今回倒れたのもきっと――。