「菓子ちゃんは味覚障害だ。三年前、ある出来事のあと、ものを食べても味を感じなくなってしまったんだ」
信じられなかった。信じたくなかった。自分の見ている景色が急に色を変えてしまったような、急に目の前がぐにゃりと歪むような、そんな錯覚を起こした。
「そんなことって……」
ひとつ、思い出すことがあった。あれは菓子先輩と非常階段で出会った日のこと。強引に調理室に連れて行った菓子先輩が、ミネストローネを前にして言った台詞があった。
「そういえば菓子先輩、最初に会ったときに言っていました。“誰か味見をしてくれる人が欲しかったの”って……」
そのときは私に遠慮させないための口実だと思っていたけれど、今思えば。菓子先輩は、本当に自分では味見ができなかったんだ。
「家で夕飯を食べないと怒られる、って言っていたのも……」
それも嘘じゃなかった。きっと家族が心配して、少しでも夕飯を食べさせようとしていたのだろう。
「ひどい、そんなの、ひどすぎるよ……」
あんなに料理を愛している菓子先輩が。おいしいものでたくさんの人を笑顔にしてきた菓子先輩が。自分ではそのおいしさも感じることができていなかったなんて――。
三年もの間、ずっと。そんなのあまりにも、ひどすぎる。
信じられなかった。信じたくなかった。自分の見ている景色が急に色を変えてしまったような、急に目の前がぐにゃりと歪むような、そんな錯覚を起こした。
「そんなことって……」
ひとつ、思い出すことがあった。あれは菓子先輩と非常階段で出会った日のこと。強引に調理室に連れて行った菓子先輩が、ミネストローネを前にして言った台詞があった。
「そういえば菓子先輩、最初に会ったときに言っていました。“誰か味見をしてくれる人が欲しかったの”って……」
そのときは私に遠慮させないための口実だと思っていたけれど、今思えば。菓子先輩は、本当に自分では味見ができなかったんだ。
「家で夕飯を食べないと怒られる、って言っていたのも……」
それも嘘じゃなかった。きっと家族が心配して、少しでも夕飯を食べさせようとしていたのだろう。
「ひどい、そんなの、ひどすぎるよ……」
あんなに料理を愛している菓子先輩が。おいしいものでたくさんの人を笑顔にしてきた菓子先輩が。自分ではそのおいしさも感じることができていなかったなんて――。
三年もの間、ずっと。そんなのあまりにも、ひどすぎる。