「こむぎちゃんは、菓子ちゃんの秘密についてどこまで知っているの?」

 オレンジフロートを食べ終わった私に浅木先生が訊ねた。秘密、という言葉に緊張する。

「ごはんをあまり食べないということ、お茶はふつうに飲めるということ、本人はそれをまわりに悟らせないようにしているということ……。それくらいです。料理部で作ったものは、私に食べさせるか自分の分は家に持ち帰っていました」

「そっか。それについてこむぎちゃんはどう思っていた?」

「拒食症なのかなって……。でも、自分で拒食症について調べたときに何か違和感があったんです。菓子先輩には当てはまらないことが多い気がして。それに、あんなにおいしいものが大好きな先輩が、作るのは大丈夫で食べるのだけできないって、考えると不思議なんです」

 私がもしごはんを食べるのが嫌になったら、きっと見るのも嫌だから料理部なんて入らないと思う。菓子先輩はいつも楽しそうにおいしいものを作っていて、その姿はとても幸せそうで、食べものを憎んでいたらあんな表情はできないと思う。

「そうか。こむぎちゃんの違和感は当たっているよ。菓子ちゃんは、拒食症ではない」

 ドクン……。心臓が大きく動いたせいで、足元が揺れた気がした。

「じゃあ、菓子先輩は何の病気なんですか? そもそも病気なんですか?」

 覚悟はしていたことなのにうろたえてしまう。もし私の知らないような病気や、命に関わるような病気だったら、私は菓子先輩を助けられるのだろうか。

「ストレスやショックで、突発性難聴になったり、声が出なくなったりする人がいることは知っている?」

「聞いたことがあります」

 歌手で突発性難聴になった人の話は聞いたことがあった。

「それと同じことがね、味覚にも起こるんだよ」

「そんな……、まさか」

 頭の中を嫌な想像が襲う。どうか予想が当たっていませんように、と祈る私に、浅木先生が残酷な事実を告げた。