「はあ、おいしい……」

 甘味と酸味が緊張した心をほぐしてくれる。これから何を聞いても大丈夫なように、しっかりエネルギー補給をしておかねば。

「食べ終わったら話そうか。僕が知っている菓子ちゃんの事情を、こむぎちゃんに教えるよ」

 浅木先生は『準備中』の札を掛けに行ったあと、自分にもコーヒーを入れてカウンターの向かいに座った。

「ちょうど休憩したい気分だったから良かった。あ、今見たこと聞いたことは柿崎先生には内緒ね。怒ると怖いんだ、あの人」

 浅木先生が目じりをきっと上げて、柿崎先生の怒り顔のマネをする。それがよく特徴をとらえて似ていたから、思わずぷっと吹き出してしまった。――柿崎先生、ごめんなさい。

 落ち着いたら少し冷静になった。嫌われてもいいから菓子先輩を助けるんだ、なんて息巻いていたけれど。

「……勢いでここまで来てしまったんですけど、菓子先輩は私が知ることを嫌がったりしないでしょうか」

 私のしていることは、浅木先生にも菓子先輩にも迷惑をかけるだけの単なるわがままなのではないのだろうか。私がそれを知ったことで、菓子先輩が余計に悪くなることはないのだろうか。

「菓子ちゃんもきっと、こむぎちゃんに知ってもらいたいと思っているはず。知ってる? 菓子ちゃんが誰かを自分からこの店に連れてきたのは、こむぎちゃんだけなんだよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。こむぎちゃんを連れてくるまでは、いつも一人で来ていたね。あの日は珍しいことだったから、僕も驚いたのを覚えているよ」

 もう、すごく昔に感じてしまう四月のこと。菓子先輩に抱き締められて倒れかけたのを思い出す。あのときは私もびっくりした。浅木先生とは違う意味で、だけど。