さっきから何回、廊下を往復しただろう。調理室前の廊下をうろうろしている私を、通りがかった生徒が不審な目で見て行く。

 料理部に入ろうと決心したはいいが、いざ調理室を目の前にすると、なかなか自分から扉を開けることができなかった。

 菓子先輩にとっては一時の親切で、そこまで深く関わるつもりはなかったかもしれない。もし迷惑そうな顔をされたら、私――。

「あらっ、こむぎちゃん?」

 ガラッと扉の開く音がして、割烹着姿の菓子先輩が調理室から出てきた。

「ちょうど今から迎えに行こうと思っていたの。いいタイミングだったわあ」

「あっ、あの」

「今日も味見しに来てくれたんでしょ? そうそう、カレースープの味はどうだったかしら」

「ええと、そうじゃなくて……」

 顔を赤くしながら黙り込んだ私を見て、菓子先輩が顔を曇らせる。

「どうしたの? もしかして口に合わなかった?」

「ち、違います。その、にゅ、入部がしたくて……!」

「えっ、本当?」

「は、はい。一応、入部届も書いて持ってきました」

「……こむぎちゃん!」

 菓子先輩はぷるぷる震えながら私の両手を握ったかと思うと、手をつないだままくるくる回り始めた。

「やった、やったわー!」

「わ、わっ」

「さっそく、顧問の柿崎先生に提出しに行きましょ!」

 一緒に回される形になった私が「ちょっと早まっただろうか」と思ったのは言うまでもない。