その街は、そこに足を踏み入れる度に、柔らかいものに包み込まれるような不思議な感覚を感じさせてくれた。

 街全体が大きく構えていて、平和という安定したものが集まっているように見えたからかもしれない。

 そこには俺の親戚、厳密に言えば、俺の母親の姉夫婦と、俺よりも5歳年上の従兄弟の芳郎兄ちゃんが住んでいた。


 閑静な住宅地といったら、どの住宅地にも一般的に当てはまる決まり文句になるけど、その辺り一帯は本当に住み心地良さそうな気品が誰の目にも見えたと思う。

 坂の上の丘に集まるその家々は、大きさからして、お金持ちの地域に分類されると思う。

 伯父は常に仕事に忙しそうで、名前を聞けばステイタスがたっぷりしみこんだ大きな会社に勤めていたし、伯母もお金に余裕があるので、自分の趣味に力を入れた生活をしていた。

 そのせいか、伯父はどっしりと構えた紳士、伯母はおおらかで優しい淑女と、どちらもいつも落ち着きを払った貫録があった。

 だから伯父は、家族を大事にする人であったし、仕事が忙しくても家に帰れば温かな家庭が心の支えとなって、羨ましいほど幸せな生活を送っていた。

 そんな夫婦の間に生まれた息子の芳郎兄ちゃんも、落ち着いた幸せ一杯の家庭で勉強に励み、文句なくよく出来る子供となっていった。

 また見掛けもすれたところがなく、礼儀正しくすっきりとした精悍さがにじみ出ていた。

 見るからにいいとこのおぼっちゃまという感じだった。

 そこの家もまた、アパート住まいの自分ちよりも広々としてたし、しゃれた家具や行き届いた掃除でいつも高級感溢れていた。

 庭もあったし、洋風の洗練された白い外壁は子供心ながらいい家だなと思っていた。


 俺はそこの家に遊びに行くのが好きだった。

 伯父も伯母も優しいし、芳郎兄ちゃんも弟のように俺を可愛がってくれた。


 正月や夏休みといった、纏まった休みが取れると、母は俺を連れて、泊りがけでよく遊びに行った。