「あのさ、あのサボテンはどうなったんだ?」


 葉羽は出窓に掛かっていたレースのカーテンを引くと、ちょうど突き出した窓の棚にあのサボテンが鎮座していた。

 サボテンは枯れるどころか、今も青々として健在だった。


「これ、あの時のサボテンなのか?」

「うん、そうだよ」


「こんなに元気になってるなんて」


 俺がまじまじと見ていると、葉羽はくすっと笑っていた。


「このサボテンは三回だけ花を咲かすの」

「なんでそんなこと分かるんだい」


「サボテンがそう言ったから」

「まさか」


 俺は噴出した。


「あっ、悠斗君、やっと笑った」


 やはり俺を笑わせようと冗談を言ったのかもしれない。


「なんだよ」


 俺はなんだかその指摘に照れてしまった。

 少し気分を害したようにごまかすが、この雰囲気は悪くない。

 やっと葉羽と元に戻れたような嬉しさに、体が熱くなる。


「それでね、このサボテン、あと一回だけ花が咲くの」

「と、言うことはもうすでに二回花が咲いたってことなのか?」


「うん」

「次はもっとすごい奇跡が起こると思う。前の二回もそうだったから」


「奇跡? 花が咲くと奇跡が起こるのか?」

「多分、そうだと思う」


「おいおい、すでに二回奇跡が起こったんだろ。なんでそこで多分なんだよ」

「うーん、上手く言えないんだけど、その奇跡は私の使命みたいなものだったから」


「どういう意味だよ。何言ってるか全然わかんないんだけど」

「だから、いつか悠斗君もわかるんじゃないかな」


「さっぱりわかんないよ」

「もういいじゃない。とにかく手品しよう」


「えっ、俺もか?」

「そう。これからは私が師匠で悠斗君が弟子」


「なんか下手くそな師匠だな…… っておい、勝手に弟子にするなよ」

「そっちこそ下手くそだなんて勝手に決め付けないでよ。少なくとも私の方が何も知らない悠斗君より上だと思う」


 あの腕で上だと言われると、なんだか打ち負かしたくなって、闘志が湧いてきた。


「わかったよ。俺の方が上手いところみせてやるよ」


 結局は葉羽に言い負かされた形で、俺は手品を習うことになった。

 なんだかそれも正直悪くなかった。