もしもみんなのいる世界を取り戻せるのなら、それ以外に望むことなんて、何ひとつないような気がした。
唯人の大きな手が、私の腕を握った。その手は小刻みに震えている。
「どうして俺は何も覚えてないんだ。どうすれば忘れずに済むんだ……どうすれば……」
そのとき、唯人の言葉を遮るようにしてチャイムが鳴り始めた。
明るいチャイムの音が、私の耳には途方もなく悲しい音に聞こえた。
まだまだ言い足りないことがたくさんあるはずなのに、口が動くばかりでどれも言葉にならなかった。
私の腕を掴んでいる唯人の手のぬくもりが徐々になくなっていく。現実が、儚いまぼろしに変わろうとしている瞬間だった。
私は唯人に向かって両手を伸ばした。しかしその手は唯人の身体をすり抜け、もう触れることはできなかった。
次の瞬間、教室の中が真っ白な光に包まれ、何も見えなくなった。耳元でしている唯人の声が遠のく。
そして——