クラスメイトたちがひそひそと囁き合う中、唯人だけは身じろぎひとつせずに私を見下ろしていた。
「俺が忘れてるのって、そのことなんだね」
低く囁くような声だった。私を見つめる瞳はどこまでも透き通っていて、疑いの色がない。
唯人は良くも悪くも純粋だ。人の言ったことをなんでもかんでもまっすぐに受け止め、疑おうとしない。
そんなんじゃ将来、悪い人たちに騙されて大変な目に遭うよって何度も注意した。
注意しながら、その無条件に人を信じることのできる心の綺麗さがたまらなく愛おしかった。
そうだよ、と私は言った。言ってから、そこでまた声を上げて泣いた。
時間はまたたく間に過ぎた。
潤んだ目で時計を見上げると、まもなく昼休みが終わろうとしているところだった。
「なんで一日経つと全部リセットされちゃうんだろうね。私、みんなに今日のこと覚えていてほしいよ。忘れないでほしいよ。ひとりにしないでほしいよ」
「リリ……」
「あぁ、修学旅行に行ってほしくないな。死なないでほしいな。ひとりぼっちで寂しい未来には戻りたくないな。まだまだ一緒にいたかったな」