「ごめん、リリ。俺が何を忘れてるのか、もう一回だけ教えてくれない?」
「教えたって、どうせ明日には全部忘れちゃうんでしょ」
「忘れないよ」
「忘れるよ。だって昨日も同じこと言ったもん」
「昨日も?」
「ほら、忘れてるじゃん」
感情的な言葉ばかりが口から吐き出される。
唯人に非があるわけじゃないのに、一方的に責め立てるような言い方しかできない。
きっと心のどこかで期待してしまっていたんだ。
たとえクラスの誰ひとり、昨日のことを覚えていなかったとしても、唯人だけは覚えてくれているんじゃないかって。
唯人は顔の前で手を合わせた。
「今度こそ絶対に忘れないって約束するから。お願い、リリ。教えて」
今の私に、『約束』という言葉はあまりに重すぎた。決して果たされることがないとわかっていながら約束を交わすのは、むなしい行為だった。