視線を教室に戻すと、唯人は席に座っていて、周囲の男子たちと笑いながら喋っていた。窓の向こうに雨雲はなく、澄み渡った秋の空が広がっている。
私はすくみそうになる足をなんとか動かして、唯人に近づいた。
「でさ、びっくりして俺――」
「――ねぇ」
夢中で喋っている唯人に横から声をかけ、無遠慮に会話を遮った。
「おう、リリ。どうしたの?」
唯人は椅子に座ったまま、上目遣いにこちらを見た。
そのとき、唯人の机が視界に映った。
あれだけ大きな文字で『修学旅行に行くな』って書いてあったのに、まるでそんなものは初めからなかったかのように、跡形もなく消えている。