「ちょっ、リリ。なんで泣いてるの!」
唯人は弾かれたように立ち上がった。その拍子に両腿で机を蹴り上げてしまい、ガシャン、と大きな音を立てて机が倒れた。
鹿公園の話で大笑いしていた智ちゃんたちの声が止まった。教室にいる全員が、一斉にこちらを振り返った。
私は涙を流しながら、「あのね、みんな」と静かな声で言った。
「私、十二年後の未来から来たんだ」
「えっ……?」
「今日で過去に戻ってくるの三回目なんだけど、戻ってくるたびにみんなの記憶がリセットされちゃって、誰も昨日のことを覚えてないの。だからもう一度言うね」
震える唇を動かし、言葉を絞り出す。
「みんな、修学旅行に行かないで。行ったらバスの事故に巻き込まれて死んじゃう」
みんなの表情が凍りついた。
昨日とは明らかに違う反応だった。
誰も笑う人はいなかった。頭ごなしに冗談でしょ、と言う人もいなかった。