先生は旧校舎の裏口の鍵を開けると、「一人で大丈夫そう?」と訊いてきた。私はうなずいた。
「はい、大丈夫です」
「じゃあ私は職員室に戻って仕事してるわね。帰るときにまた一声かけて」
「わかりました」
私はドアを開けて中に入り、まっすぐ三階に向かった。
校舎の中はひどく静かだった。ギシギシと階段の軋む音がやけに大きく響く。
廊下を進み、3年1組の前までやってきた。開け放たれた扉の向こうには空の机が並んでいて、夏の陽射しを照り返している。
昨日、何百回と教室の出入りをおこなってみたけれど、ふたたびみんなが現れることはなかった。
もしかすると、私が見たのは一度きりのまぼろしだったのかもしれない。
そうだとしても、やっぱり諦めきれない。
私は深呼吸し、ゆっくりと一歩前に踏み出した。
お願い、神様。
どうかもう一度、みんなに会わせて——