今日起こったことを先生に話そうか。


いや。きっと話しても、みんなを失ったショックで気が狂って幻覚を見たんだ、と思われるだけ。


私も私で、あれが何だったのかわかってないし……


やっぱり話すのはやめておこう。


「変なこと言ってすみませんでした。やっぱり私の聞き間違いだったみたいです」

「そう……」

「はい」


束の間、ふたりの間に沈黙が落ちた。私は上目遣いに先生を見た。


「お願いがあるんですけど……」

「お願い?」

「明日もまた、旧校舎を見に来てもいいですか?」


先生は一瞬、えっ、という顔をしたけれど、すぐにそれを取り繕うように微笑んだ。


「えぇ、構わないですよ」

「ありがとうございます」

「明日は何時頃に来ますか?」

「できれば今日と同じくらいの時間がいいんですけど……」

「わかりました。じゃあ学校に着いたら、今日と同じように玄関のベルを鳴らしてくださいね」

「わかりました」

「それじゃあ、帰りましょうか」

「はい」


教室のドアを出て、肩越しにそっと振り返ってみた。


そこにあるのは、まったく何事もなかったような、沈んだ静けさだけだった。