「——凛々子さん?」
いきなり背後から声をかけられ、びっくりして息が止まった。
振り向くと、松下先生の顔が目の前にあった。考え事に没頭していたせいで、足音に気がつかなかった。
「凛々子さん、まだいたのね。5時を過ぎても戻ってこないから、てっきり家に帰っちゃったのかと……」
先生は私の泣き腫らした顔を見ると、気の毒そうに眉を下げた。私はふらつく足を踏みしめるようにして立ち上がった。
「5時、過ぎちゃってたんですね。すみません」
「ううん、それは別にいいんだけど……」
「あの、先生。ひとつ聞いてもいいですか?」
「えぇ、何かしら?」
「12時15分くらいに、旧校舎で鳴ってたあのチャイムは何ですか?」
「チャイム?」
先生はきょとんと首をかしげた。
「おかしいわね。旧校舎のチャイムは鳴らないはずなんだけど」
「じゃああれは、新校舎で鳴ってたチャイムなんでしょうか?」
「それもないと思う。今は夏休み中だから、新校舎の方のチャイムも切ってあるのよ。朝から一度も鳴ってないわ」
「えっ、でも……」
聞き間違いだとは思わなかった。絶対に空耳でもなかった。あれは本当にチャイムが鳴っていた。それだけは断言できる。