隣に立つ信広さんを見上げた。彼はすっと目を細めただけで、何も言わなかった。
行こう。お別れを告げに。
私は前を向き、新聞記事を胸に抱えながら、大きく一歩踏み出した。
————…………
教室の中に入っても、チャイムの音は聞こえてこなかった。時計も光り出さない。
タイムリープは起こらなかった。
不思議と、もう一度試してみようという気持ちにはならなかった。
自分でも驚くほど心の中は平穏で、
あぁ、本当に終わったんだ……
そう、感じただけだった。
七月最後の朝日が窓を通り抜けて、教室に並ぶ空っぽの机を照らしている。
窓の向こうに広がっているのは、十二年前の景色ではなく、まぎれもなく現在の景色だった。
私は窓辺に歩み寄り、澄み渡った青空に輝く太陽に右手をかざした。夏の白い陽射しを受けて、指輪がまばゆく光る。