私は肩越しにそっと後ろを振り返った。信広さんは玄関脇の壁に寄りかかりながら、自分の薬指にはめている指輪をじっと眺めていた。


玄関の向こうは明るい光に満ち、逆光のせいで信広さんがどんな表情をしているのかわからない。


自殺してしまった彼女のことを想っているのかな……


この沈黙を破る方法がわからなかった。そもそも破る必要があるのかもわからなかった。


私は逆光に照らされる信広さんの横顔を見つめながら、唇を噛んで黙っていた。






ほどなくして、廊下の奥からスリッパの音が聞こえてきた。


松下先生は急ぎ足で玄関に戻ってくると、「はい、どうぞ」と言って旧校舎の鍵を私に差し出した。


「ふたりで行ってきて」

「先生は?」

「職員室にいるわ。私が心配して付き添わなくても、凛々子さんはもう大丈夫だと思うから」

「ありがとうございます」


私は先生から鍵を受け取り、手の中に握り締めた。