「ありがとう。ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃい。何かあったらすぐ電話して。駆けつけるから」
「ははっ、母さんは本当、心配性だなぁ。俺たち、旧校舎を見に行くだけだよ。何も起きやしないよ」
「でも……」
「さっ、凛々子さん、行きましょう」
信広さんは私の肩に手をかけた。私は先生に軽く会釈をし、信広さんと一緒に玄関を出た。
私たちはまっすぐ3年1組に向かい、教室の前で足を揃えて立ち止まった。
この向こう側には、明日命を落としてしまうことなど知らずに、いつもと変わらない賑やかな昼休みを過ごしているみんながいる。
急に怖くなった。膝が震え、地面に触れている足の裏の感覚がなくなっていく。
信広さんは私の背中に手を置き、大きくひとつうなずいた。大丈夫だよ、と言ってくれているようで、心強さを感じた。
そうだ。
今の私はひとりじゃない。
この途方もない悲しみを分け合える人が、隣にいてくれる。