「はい、白石です」
一拍あってから、「凛々子さんですか?」と柔らかい女性の声がした。
「えぇ、そうですけど……」
「久しぶり、凛々子さん。私、梢田(こずえだ)中学で教師をしてる松下です」
「あぁ、松下先生」
電話の相手は、“あの事故”で3年1組の担任が亡くなったあと、私が卒業するまで担任の代わりに面倒を見てくれた優しい女の先生だった。
うちのスーパーに時々買い物に来てくれるのだけれど、ここ一ヶ月半ほど一度も職場に行っていないので会っていない。
「お久しぶりです、先生。どうしましたか?」
「凛々子さんに大事なお話があって電話したの」
「大事なお話?」
「えぇ、実はね」
受話器の向こう側で、大きく息を吸う気配があった。
「旧校舎の取り壊しが、来週の水曜日から始まることになったのよ」