お喋りに夢中になっていると、いつのまにか日は完全に沈んでいて、空が暗くなっていた。夜の闇の中で、屋台の灯りが幻想的な輝きを放っている。
先生の分のたこやきは、すっかり冷めてしまっていた。パックの内側が水滴で濡れている。
「そういえば松下先生、帰ってきませんね」
「きっとお喋りに夢中になってるんでしょうね。俺たちみたいに」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
私たちは顔を見合わせるようにして笑い合った。ふたりの笑い声が、風に乗って屋台の方へ流れていく。
——ドンッ。
そのとき、花火の音が辺りに轟いた。私と信広さんは同時に頭上を仰いだ。あちこちから歓声が上がる。
「始まりましたね」
「えぇ」
赤や緑、黄色や紫。
色とりどりの光が、次から次へと夏の夜空に高く放たれ、巨大な円を描き、またたき、こぼれ落ちていくように散っていく。
花火の光に照らされる信広さんの横顔を眺めていたら、なぜかたまらなく泣きたくなった。涙がこぼれ落ちないように、私は唇を引き結んで空を見上げた。
視界が潤み、満開に咲く花火が、水彩画に水をこぼしたかのように滲んで見えた。