それにしても、と先生が言った。


「ようやくノブを凛々子さんに紹介できて嬉しいわ。うちの息子、年に二回は実家に帰ってきてくれるんだけど、帰ってきても仕事が忙しくて、一日二日ですぐに東京に戻っちゃうから、なかなか会わせる機会がなくて」

「出版業界は忙しいですもんね」

「でもね、今回は長くおやすみが取れたから、来週の土曜日までいてくれる予定なのよ」

「それはよかったですね」

「凛々子さんは毎年こずえだ祭りに参加してるの?」

「いえ、私は……」


あの事故が遭った年以来です、と言おうとしてやめた。「実は十年ぶりくらいなんです」と言い換えた。


「先生たちは?」

「私は毎年参加しているわ。小さい頃から、このこずえだ祭りが大好きでね。ノブは仕事の状況にもよるんだけど、実家に帰ってくる日がお祭りと重なっているときは、必ず一緒に来てるの」

「そうだったんですね」

「まぁ、一緒に来てるというよりは、私が強引に連れて来ちゃってるって感じなんだけどね。この子、人が多いところが苦手なのよ」

「私も同じなので、その気持ち、よくわかります」


私は先生に向けていた視線を、信広さんに戻した。