私と先生は3年1組の前で立ち止まった。
こうしてここに立っていると、この閉まった扉の向こう側に、みんながいるような錯覚に駆られた。
みんなが『ドッキリ大成功』のプラカードを持って、笑いながら現れるんじゃないか……
浮かんでくるのは、そんな現実味のない馬鹿げた空想だった。
「あの、先生」
私は込み上げてきそうになる涙を懸命にこらえながら言った。
「少しの間、一人にしてもらってもいいですか?」
「えぇ、わかったわ。じゃあ、私は職員室に戻るわね。裏口の鍵は開けておくから、どうぞごゆっくり」
「すみません。ありがとうございます」
遠のいていく足音を背中で聞きながら、身じろぎひとつせずに、じっと扉を見つめていた。
先生が去ったあとには静寂が残され、その静寂を埋め尽くすように、外の蝉が一斉に鳴き始めた。