「先生、こんにちは」
「こんにちは、凛々子さん。一瞬、誰かわからなかったわ。髪、切ったのね」
「はい。昨日久しぶりに美容院に行ってきました」
「そうだったのね。ずいぶんすっきりしたじゃないの。新しい髪型、すごく似合ってるわ。それにその浴衣も素敵」
「ありがとうございます」
「今日は誰と来てるの?」
「ひとりで来てます。先生は?」
「あぁ、私は……」
先生はくるっと後ろを振り返り、大きく手を上げた。
「ノブーっ! ちょっとこっちに来てー!」
さきほど目が合った男性が、人混みをかいくぐるようにして、こちらに向かってきた。その一歩一歩が、私の目にはスローモーションに映っていた。
向かい合って立つと、彼は見上げるほど背が高かった。178cmあった唯人よりさらに高い。185cmくらいはありそうだった。
上品な顔立ちとたたずまいは、まるで平家の貴公子みたいで、浴衣がとてもよく似合う。
先生は彼の方を手のひらで示した。
「紹介するわね。うちの息子の信広」
「どうもはじめまして」
夏であることをふいに忘れさせられそうな、澄んだ涼しい声だった。