私は涙で濡れた顔を上げ、まっすぐ唯人を見下ろした。唯人は私の口の両端に人差し指を置き、きゅっと口角を押し上げた。
「悲しいの、悲しいの、飛んでけーっ!」
私と唯人はまじまじと見つめ合い、一呼吸、二呼吸して、同時に吹き出して笑った。自分の中で張り詰めていたものが、ふっと緩んだ。
「何、それ」
「笑顔になるおまじない。ほら、意外と効くでしょ?」
「そうかもね」
「俺、思うんだ。幸せな出来事が笑顔を作るんじゃなくて、笑顔が幸せな出来事を引き寄せるんだって。笑顔でいることは、状況に関係なく選択することできる。すなわち幸せになるのも、不幸になるのも、自分で選択できるんだって」
思いがけない言葉だった。
その言葉を聞いた瞬間、自分の目の前に、これまで見えなかった道が、ぱあっと現れた気がした。
それは決して平坦な道ではない。険しい上り坂もあれば、緩やかな下り坂もある。
私の前には、まだまだ上り坂が続いている。
だけど見える。何もないと思っていたこの道の最果てで、私を待っているみんなの姿が。
聞こえる。歩くことを諦めてしまった私を、諦めずに応援し続けるみんなの温かい声援が。明るい笑い声が。
そして気づく。私の幸せは奪われたのではなく、自ら手放してしまっていたのだということに。