唯人は自分の机の中からプリントを取り出すと、半分に折って鞄の中に仕舞った。
「リリは忘れ物、もう取った?」
「あぁ、まぁ、うん……」
「じゃあ行こうか」
「待って!」
私は唯人の背中に向かって叫んだ。あまりに大きな声で呼び止めてしまったので、唯人はびっくりしたようにこちらを振り向いた。
「どっ、どうしたの?」
「あの……その……」
教室から出たら消えちゃう!
行かないで!
そう感情任せに声を張り上げたくなるのをぐっと我慢した。
「もう少し唯人と、ここにいたいなって思って……」
私がそう言うと、唯人はにこっと歯を見せて微笑んだ。
「ははっ、誰もいない休日の教室にふたりきりっていうのも、なんかいいよな。そうだね。せっかくだし、ここで宿題を少しやってから行こうか」
唯人は自分の席に座ると、隣の椅子をとんとんと手のひらで叩いた。
「リリ、こっちにおいで」
歌うような甘い声。その声に吸い寄せられるようにして、私は唯人の隣に腰を下ろした。