「それ全部、凛々子が作ったのか……?」
「そうだよ。たまたま家に材料が揃っててさ。よかったらおやつに食べて」
お父さんはタッパーを私から受け取り、そっとふたを開けた。
「凛々子の手作りお菓子かぁ。ずいぶん久しぶりだなぁ。お父さん、嬉しいよ」
「お母さんも嬉しい。相変わらず上手ね。可愛すぎて食べちゃうのがもったいないくらい」
「このクッキー、今からおばあちゃんのところにも持っていこうかなって思ってるんだけど……」
「おぉ、そうか、そうか。おばあちゃん、相当喜ぶぞ」
「病院までお母さんが車で送っていこうか?」
「ううん、バスで行くから大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん。ふたりとも、いつもお仕事お疲れ様。ごめんね、全然お手伝いできなくて。二十七歳にもなって、ふたりに甘えてばっかりで、私……」
お父さんはその先の言葉を遮るように、首を横に振った。
「いいんだ、そんなこと気にしなくて」
「そうよ。無理せず、元気なときに働いてくれればいいから」
涙ぐみそうになって、下唇を強く噛んだ。
私は本当にいい両親に恵まれた。子供だった頃は、転校ばかりさせるふたりを恨んだりしたこともあるけれど、今は心の底から感謝している。