先生は私の腕から手を離し、力が抜けたように肩を落とした。


「ごめんなさい。決して責めてるわけじゃないの。ただ凛々子さんのことが本当に心配で。さっきも突然大声で『お願い、待って!』って叫び出すし……」

「えっと、それは……」


うまい言い訳が思いつかず、口ごもってしまった。先生は眉を八の字にして私を見た。


「もう、ここには来ない方がいいんじゃないかしら」


すぐ近くで雷鳴が轟いた。少し遅れて、薄暗い教室の中に鋭い閃光が走った。外の雨音が強くなった。


「嫌です。どうしてそんなこと言うんですか」

「だってこの教室に来るようになってから、凛々子さんの様子がどんどんおかしくなっていくんだもの。私、怖いの。このまま凛々子さんが幻覚と現実との区別がつかなくなってしまったらと思うと」

「だから“幻覚”なんて見てませんってば!」


思ったよりも大きな声が出てしまった。先生はビクッと肩を震わせた。ふたりの間に生じた沈黙を掻き消すように、窓の外でふたたび雷が鳴った。


「すみません……」


私はすぐに謝った。今度は自分の耳にもよく聞こえないような小さな声になってしまった。