旧校舎に向かって歩いている間、先生は一言も喋らなかった。私もあえて話しかけるようなことはしなかった。


沈黙の中、ビニール傘に当たってぱらぱらと弾ける雨粒の音だけが耳に響く。


先生は旧校舎の裏口の扉を開けて中に入ると、濡れた傘を玄関脇に置き、そのまま3年1組の教室に向かって歩き出した。私も無言でそのあとをついていく。




教室の前までやってくると、ずっと黙り込んでいた先生が口を開いた。


「私、やっぱり凛々子さんのことが心配だわ。また幻覚が見えたり、チャイムの音が聞こえたりしたらどうしようって」

「心配をかけてしまってすみません。だけど本当にもう大丈夫ですから」


毅然と言ったつもりが、外の雨音に掻き消されてしまいそうなほど小さな声になってしまった。先生の目から不安の色は消えない。