そう言うだろうなと思っていた。

 白露さんは梅昆布茶が好きなのだ。


 私は慣れた手つきで食器棚から湯飲みを二つ取り出す。自分と白露さんの分だ。

 まず最初に湯を沸かす。

 湯が沸くまでの間に、梅干しを炎で炙って少し焦げ目をつけた。

 お湯が沸いたら湯飲みに緑茶を入れ、三センチくらいに切った塩昆布を数枚と、先ほど炙った梅干しを投入する。


 正しい作り方なのかは分からないが、これが白露さんの好きな梅昆布茶の作り方だ。

 二つの湯飲みを小さな盆に乗せ、ついでに戸棚にあった豆大福をわしづかみにして何個か持っていく。一応店の手伝いをしているのだし、たまにこういう役得があってもいいだろう。お茶があると、一緒に甘い物が食べたくなる。


「お待たせしました」


 お茶を持っていくと、白露さんは嬉しそうに湯飲みを受け取った。

 私も白露さんの隣に座り、湯気があがる茶をちびちびと飲んだ。


 口の中に塩と梅の酸っぱい味が広がる。

 口が酸っぱくなったので、中和するために豆大福をパクリと頬張った。


「はぁー、あまーい、おいしー、しあわせー」


 蕩けるような顔になった私を見て、白露さんは呆れたように茶をすする。


「あなたはすぐに幸せになれて、簡単でいいですね」

「はい、お菓子があれば私はいつも幸せですよ」


 青々とした竹の葉が、雨粒が落ちる度に弾んでいる。

 私は今日学校であったことを思い出し、話してみた。


「そういえば、今日友達に聞かれたんです。このお店のこと」

「へぇ。それで狐のあやかしと一緒に働いているということを話したんですか?」

「まさか。言いませんよ。言っても信じてくれないでしょうし」


 ずっ、とお茶をすすって、目を閉じる。


「でも、不思議ですよね。そういえば私、どうしてここに通い出したんでしたっけ?」


 まだ一年そこらしかたっていないはずなのに、白露さんと出会った時のことを思いだそうとすると、記憶がいまいち不鮮明だ。