元々梓から赤色が好きだと聞いていたため、プレゼントするためのコートの生地は赤色を選んでいた。さすがにマフラーも赤色にするわけにはいかないため、白と肌色を組み合わせて、柔らかい色合いで編み上げてある。

 十一月二十三日。梓の誕生日である二十四日の一日前。大学が終わった僕は、コート作りの最後の調整をしていた。袖の長さに問題はないか、梓の着ているコートを見ながら確認する。実際に着てみないと、細かい部分まではわからないが、初めて袖を通した時になるべく違和感がないようにしたい。こういうのは、着る瞬間に一番感動を覚えるものだから。

 たっぷり一時間ほど調整に時間を費やした僕は、ようやく安堵の深い息を吐いた。これで、完成。本当に、ギリギリだ。

 梓が誕生日を教えてくれたのは、焼き鳥屋で酔っ払っている時だった。だから本人も誕生日を教えたことを忘れていたらしく、その日が近付くにつれて、梓はやけにそわそわするようになっていた。わざわざ誕生日を教えると、プレゼントを要求しているみたいで気が引けるのだろう。時折悲しそうな表情で話しかけてきたかと思えば、三分ほど口をモゴモゴさせて「やっぱり、なんでもない……」と肩を落としていた。

 さすがに梓のことが可哀想になった僕は、誕生日を知っていることを伝えた。すると顔を真っ赤にさせながら背中をポンポン叩いてきて、「もっと早く言ってよ!!」と怒られた。僕も少し、梓のことをからかいたかったのだろう。

 その際、誕生日は期待しててと伝えると、梓はふとした時に部屋の中を物色するようになって、少し困った。用意しているプレゼントを、クリスマス前の子どもみたいに期待してくれているのだろう。

 僕は梓に見つからないように、コートとマフラーを押入れの奥に隠していた。一度、妹に頼んで実家から送ってもらったミシンを、机の上に置きっぱなしにしてしまったことがあったが、梓は特に気にした様子もなく、僕も「ちょっと、服を直そうと思って」と適当な嘘をついた。別に服を直すぐらいならミシンを使わなくてもいいが、彼女も全く疑わなかったためホッとした。

 そんな数日間の思い出に浸っていると、玄関の方から鍵を開ける音が響き、次いで「ただいまー!」という声が届いた。マフラーとコートを包装しようと思っていたが、僕は慌ててプレゼントを押入れの中にしまいこむ。押入れを閉めたと同時に、梓は部屋のドアを開いたため、本当に間一髪だった。