身体を揺すられる感覚がして、朝陽は目を覚ます。腰や腕など様々な場所に違和感があり、自分がリビングで寝たのだということを思い出した。
この場所で眠ると、大概の場合朝起きた家族に邪魔だと言われ起こされてしまう。しかし、今日はどこか様子が違うようだった。
「ねえ朝陽、紫乃ちゃんの様子がおかしいんだけど」
「え?」
「だから、おかしいんだって」
「姉ちゃんがなんかしたんじゃないの……」
「するかボケ」
頭を強めに叩かれた朝陽は、その痛みで目が覚めた。
紫乃の様子がおかしい。ということは、彩に何かがあったということなのだろう。昨日、突然彼女は眠ってしまったため、現状を飲み込めていないのかもしれない。
乃々が来ることも含めて説明しなければと思い、朝陽は二階の自室へと向かった。ノックをしてから、ドアを開く。
「ごめん、入るよ」
「っ!」
一瞬、彩がどこにいるのか、朝陽には分からなかった。だけどすぐに、懐かしい記憶と共に彼女を見つける。
――彩は、芋虫のように布団にくるまっていた。
とりあえず話し声が聞こえないように、朝陽は部屋のドアを閉めた。そして近付き、彼女の名前を呼ぶ。
「……綾坂さん?」
「……朝陽、くん?」
子どもの頃そうしたように、布団をジッと見つめる。あの時は彼女が出てくるまでにかなりの日にちと時間を要したけれど、今回はすぐに布団の隙間から綺麗な顔を出した。
彼女はもちろん、泣きぼくろのない綾坂彩だ。朝陽をまっすぐ見つめるその瞳は、驚きに見開かれている。
「どうしたの?」
「どうして朝陽くんが、それを知ってるの……?」
「ああ、ごめん。昨日勝手にスマホを見ちゃって……綾坂さんの妹さんに電話をして、教えてもらったんだ」
「妹さん……乃々さんのこと?」
どうしてそんなあらたまった呼び方をするのかと思ったが、事実のためコクリと頷く。
「昨日の夜、彩ちゃんにどこか変なところとかあった?」
「え、彩ちゃん?」
「彩ちゃんっていうか、紫乃のことなんだけど……えっと、紫乃っていうか、紫乃自身のことで……」
「ちょっと落ち着こうか。綾坂さんは、もう紫乃のフリをしなくてもいいんだよ?」
「そうじゃなくてっ……!」
突然、彩は泣きそうな顔になって首を振る。それと同時に、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。階下から「うわやばい! この娘超かわいいー!」という朝美の声が聞こえてくる。
乃々が家にやってきたのだろう。しかしその前に、この話だけはハッキリさせておかなきゃいけない。
「そうじゃないって、どういうこと……?」
「紫乃は、紫乃なの……でも昨日は紫乃じゃなくて、彩ちゃんが朝陽くんとお祭りに行ってて……」
その支離滅裂な言葉に朝陽は困惑する。もしかすると昨日のあの時、彩は頭でも打ってしまったのだろうか。
結局彼女の言っていることを理解できないまま、朝陽の部屋がノックされる。落ち着いた大人の女性を思わせる、控えめなノックだった。
「えっと、こちらの部屋は朝陽さん? のお部屋であってますか?」
「うん。合ってるよ」
「では、失礼しますね」
ゆっくりと、部屋のドアが開かれる。
そこには、以前朝陽が彩から見せてもらった写真通りの女の子が立っていた。写真だけでは分からなかったけれど、乃々の身長はかなり低い。朝陽と頭一つ分くらいの身長差があった。
しかしその身長と童顔という容姿を持ちながら、漂う雰囲気は大人っぽさを秘めている。そこは彩と似ている部分があるのだろう。
そのちぐはぐさは、確かに周りの男子を惹きつけるのに十分なものだった。
乃々は、にこりと微笑み綺麗なお辞儀をする。
「初めまして、と言った方がいいんですよね朝陽さん。私は綾坂彩の妹の、綾坂乃々と申します」
この場所で眠ると、大概の場合朝起きた家族に邪魔だと言われ起こされてしまう。しかし、今日はどこか様子が違うようだった。
「ねえ朝陽、紫乃ちゃんの様子がおかしいんだけど」
「え?」
「だから、おかしいんだって」
「姉ちゃんがなんかしたんじゃないの……」
「するかボケ」
頭を強めに叩かれた朝陽は、その痛みで目が覚めた。
紫乃の様子がおかしい。ということは、彩に何かがあったということなのだろう。昨日、突然彼女は眠ってしまったため、現状を飲み込めていないのかもしれない。
乃々が来ることも含めて説明しなければと思い、朝陽は二階の自室へと向かった。ノックをしてから、ドアを開く。
「ごめん、入るよ」
「っ!」
一瞬、彩がどこにいるのか、朝陽には分からなかった。だけどすぐに、懐かしい記憶と共に彼女を見つける。
――彩は、芋虫のように布団にくるまっていた。
とりあえず話し声が聞こえないように、朝陽は部屋のドアを閉めた。そして近付き、彼女の名前を呼ぶ。
「……綾坂さん?」
「……朝陽、くん?」
子どもの頃そうしたように、布団をジッと見つめる。あの時は彼女が出てくるまでにかなりの日にちと時間を要したけれど、今回はすぐに布団の隙間から綺麗な顔を出した。
彼女はもちろん、泣きぼくろのない綾坂彩だ。朝陽をまっすぐ見つめるその瞳は、驚きに見開かれている。
「どうしたの?」
「どうして朝陽くんが、それを知ってるの……?」
「ああ、ごめん。昨日勝手にスマホを見ちゃって……綾坂さんの妹さんに電話をして、教えてもらったんだ」
「妹さん……乃々さんのこと?」
どうしてそんなあらたまった呼び方をするのかと思ったが、事実のためコクリと頷く。
「昨日の夜、彩ちゃんにどこか変なところとかあった?」
「え、彩ちゃん?」
「彩ちゃんっていうか、紫乃のことなんだけど……えっと、紫乃っていうか、紫乃自身のことで……」
「ちょっと落ち着こうか。綾坂さんは、もう紫乃のフリをしなくてもいいんだよ?」
「そうじゃなくてっ……!」
突然、彩は泣きそうな顔になって首を振る。それと同時に、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。階下から「うわやばい! この娘超かわいいー!」という朝美の声が聞こえてくる。
乃々が家にやってきたのだろう。しかしその前に、この話だけはハッキリさせておかなきゃいけない。
「そうじゃないって、どういうこと……?」
「紫乃は、紫乃なの……でも昨日は紫乃じゃなくて、彩ちゃんが朝陽くんとお祭りに行ってて……」
その支離滅裂な言葉に朝陽は困惑する。もしかすると昨日のあの時、彩は頭でも打ってしまったのだろうか。
結局彼女の言っていることを理解できないまま、朝陽の部屋がノックされる。落ち着いた大人の女性を思わせる、控えめなノックだった。
「えっと、こちらの部屋は朝陽さん? のお部屋であってますか?」
「うん。合ってるよ」
「では、失礼しますね」
ゆっくりと、部屋のドアが開かれる。
そこには、以前朝陽が彩から見せてもらった写真通りの女の子が立っていた。写真だけでは分からなかったけれど、乃々の身長はかなり低い。朝陽と頭一つ分くらいの身長差があった。
しかしその身長と童顔という容姿を持ちながら、漂う雰囲気は大人っぽさを秘めている。そこは彩と似ている部分があるのだろう。
そのちぐはぐさは、確かに周りの男子を惹きつけるのに十分なものだった。
乃々は、にこりと微笑み綺麗なお辞儀をする。
「初めまして、と言った方がいいんですよね朝陽さん。私は綾坂彩の妹の、綾坂乃々と申します」