もしかすると長い話になるかもしれないと言われた彩は、彼に連れられてファミレスへと入る。
奢りますよと言われて最初は遠慮をしたが、結局最後に押し切られてしまった彩は、なるべく財布に負担のかからないものを注文した。
やがて彼の注文した、たらこスパゲッティと、彩の注文したミートドリアが運ばれてくる。それを食べながら、話を始めた。
「や、いきなりで悪いんだけどさ、朝陽との関係性を教えてもらっていい? 一応友達の個人情報なので」
ここに来る前に年齢の話になって、お互いが同い年だということが判明したため、今はもう喋り方がくだけたものになっている。ちなみに彼の名前は晴野(はるの)春樹(はるき)という。
「私自身、朝陽くんにあったことはないんだよね。友達のお願いで、遠路はるばるここへ探しに来たの」
そう言って彩は、自分の身分証明書となるものを春樹に見せた。
そこには綾坂彩の名前と顔写真、生年月日、学校名が記載されている。学校名には県の名前が入っているため、彩が遠くから来たということは伝わっているだろう。
「遠くからわざわざ来たっていうのは分かったけど、なんで君が来たの? そのお友達さんが探しに来るのが普通じゃない?」
「その子、割と対人コミュニケーションが得意じゃないんだよね。だから私が手伝ってるの」
「へぇ、綾坂さんとそのお友達さんってすごく仲が良いんだね」
「はい」と言って、素直に彩は頷いた。
「そのお友達っていうのは、やっぱり朝陽のお友達?」
「友達だよ。といっても、小学一年の数週間程度しか一緒にいられなかったらしいの。私の友達が引っ越しちゃったから」
「小学一年の頃なら、俺が知る限りそんな友達いなかったと思うんだけど」
「あぁ、それは……」
彩は朝陽と紫乃の関係性について話した。
キャッチボールの球が家の庭へ入ってしまったこと。それがきっかけで、二人は友達になったこと。
思い当たる節があったのか、話をしている最中彼は昔を懐かしむような表情を浮かべていた。
「なるほどね。あの時かぁ」
「あの時?」
「あぁいや、その時朝陽と一緒にキャッチボールをしてたんだよ。そんで朝陽が人の家にボールを飛ばしたから、ビビって俺だけ逃げたんだ」
懐かしいなぁと呟く春樹の表情はとても穏やかで、きっと昔は仲が良かったのだろうことが容易に想像出来た。
「うん。嘘をついてたり、君が悪い人じゃないってことはよくわかったよ」
「今の話だけでわかったの?」
「だって、あの公園にいたのは俺と朝陽の二人だけだったし」
そう言うと、春樹はスマホを取り出して文字を打って彩に見せる。そこにはここから割と遠い場所にある、浜織町という名前が書かれていた。
「悪いんだけど、実は引っ越しする町しか聞けてないんだ。小学二年の頃からなんとなく疎遠になっちゃって」
「ううん大丈夫! 町の名前がわかっただけでも、すごい進歩だから!」
彩がお礼を言って微笑みを見せると、春樹は目をそらして鼻先を人差し指でかいた。それから窺うような視線を向ける。
「あの、さ。綾坂さんって彼氏とかいる?」
「え、いないけど。どうしたの?」
その返答に春樹はホッとした表情を見せたが、彩にはどうしてそんな表情を見せたのかが分からなかった。
「いやぁ、綾坂さんってほら可愛いから、周りの人が放っておかないんじゃない?」
「え、可愛いって。ありがとうございます? でもそんな、お世辞とか言わなくてもいいよ」
「いやいやほんと可愛いって。ぶっちゃけ綾坂さんみたいな可愛い人初めて見たもん」
春樹は分かりやすい好意の目を見せるが、そういうことに鈍感な彩は困ったような表情を見せて曖昧に微笑み、もう一度ありがとうございますとお礼を言う。
病院生活が長く続いていたため、お年寄りの入院患者からは可愛いと何度も言われていた。いつのまにか言われ慣れてしまって、春樹の言葉は全然彩に響いてはいない。
綾坂彩はいわゆる天然であり、純粋培養の善人なのだ。
「晴野くんの方こそ、男らしくてかっこいいと思うよ」
「え、まじ?! うわあめっちゃ嬉しい!」
相手が喜んでくれると、自分のことのように嬉しくなる。彩は春樹のことを見て、ニコニコと微笑んでいた。
「ねえねえ、これからまたどっか行かない? 俺また奢るからさ」
「お誘いはとても嬉しいんだけど、結構時間が限られてて……実は家族には黙って飛び出してきたの」
「あ、あぁ、そうなんだ……じゃあさ、メアド交換しない?」
「それなら全然構わないよ」
二人はご飯を食べ終わると、手早くメールアドレスを交換してファミレスを出た。
「麻倉朝陽さんのことを教えてくれて、それにご飯までご馳走してくれるなんて本当にありがとね」
「いやいや、困ったときはお互い様だから。朝陽のこと見つけられるの祈ってるよ」
彩はにこりと微笑んで頭を下げた後、もう一度大きなスーツケースをゴロゴロ引いて歩き出した。そしてスマホを取り出して、紫乃に現状報告のメールを打ち込む。
朝陽の所在が分かったこと。今は浜織という町にいるということ。それと朝陽の友達である、春樹という男の子とメアドを交換したこと。
電車の中で一度意識を沈めた後に目を覚ますと、紫乃からの返信がメールボックスに入っていた。内容は彩への感謝の言葉であり、やっぱりそれを見て彼女は嬉しくなる。
自分の胸に手を当てて、祈るように呟いた。
「次は紫乃が頑張ってね。私はあなたのこと、応援してるから」
奢りますよと言われて最初は遠慮をしたが、結局最後に押し切られてしまった彩は、なるべく財布に負担のかからないものを注文した。
やがて彼の注文した、たらこスパゲッティと、彩の注文したミートドリアが運ばれてくる。それを食べながら、話を始めた。
「や、いきなりで悪いんだけどさ、朝陽との関係性を教えてもらっていい? 一応友達の個人情報なので」
ここに来る前に年齢の話になって、お互いが同い年だということが判明したため、今はもう喋り方がくだけたものになっている。ちなみに彼の名前は晴野(はるの)春樹(はるき)という。
「私自身、朝陽くんにあったことはないんだよね。友達のお願いで、遠路はるばるここへ探しに来たの」
そう言って彩は、自分の身分証明書となるものを春樹に見せた。
そこには綾坂彩の名前と顔写真、生年月日、学校名が記載されている。学校名には県の名前が入っているため、彩が遠くから来たということは伝わっているだろう。
「遠くからわざわざ来たっていうのは分かったけど、なんで君が来たの? そのお友達さんが探しに来るのが普通じゃない?」
「その子、割と対人コミュニケーションが得意じゃないんだよね。だから私が手伝ってるの」
「へぇ、綾坂さんとそのお友達さんってすごく仲が良いんだね」
「はい」と言って、素直に彩は頷いた。
「そのお友達っていうのは、やっぱり朝陽のお友達?」
「友達だよ。といっても、小学一年の数週間程度しか一緒にいられなかったらしいの。私の友達が引っ越しちゃったから」
「小学一年の頃なら、俺が知る限りそんな友達いなかったと思うんだけど」
「あぁ、それは……」
彩は朝陽と紫乃の関係性について話した。
キャッチボールの球が家の庭へ入ってしまったこと。それがきっかけで、二人は友達になったこと。
思い当たる節があったのか、話をしている最中彼は昔を懐かしむような表情を浮かべていた。
「なるほどね。あの時かぁ」
「あの時?」
「あぁいや、その時朝陽と一緒にキャッチボールをしてたんだよ。そんで朝陽が人の家にボールを飛ばしたから、ビビって俺だけ逃げたんだ」
懐かしいなぁと呟く春樹の表情はとても穏やかで、きっと昔は仲が良かったのだろうことが容易に想像出来た。
「うん。嘘をついてたり、君が悪い人じゃないってことはよくわかったよ」
「今の話だけでわかったの?」
「だって、あの公園にいたのは俺と朝陽の二人だけだったし」
そう言うと、春樹はスマホを取り出して文字を打って彩に見せる。そこにはここから割と遠い場所にある、浜織町という名前が書かれていた。
「悪いんだけど、実は引っ越しする町しか聞けてないんだ。小学二年の頃からなんとなく疎遠になっちゃって」
「ううん大丈夫! 町の名前がわかっただけでも、すごい進歩だから!」
彩がお礼を言って微笑みを見せると、春樹は目をそらして鼻先を人差し指でかいた。それから窺うような視線を向ける。
「あの、さ。綾坂さんって彼氏とかいる?」
「え、いないけど。どうしたの?」
その返答に春樹はホッとした表情を見せたが、彩にはどうしてそんな表情を見せたのかが分からなかった。
「いやぁ、綾坂さんってほら可愛いから、周りの人が放っておかないんじゃない?」
「え、可愛いって。ありがとうございます? でもそんな、お世辞とか言わなくてもいいよ」
「いやいやほんと可愛いって。ぶっちゃけ綾坂さんみたいな可愛い人初めて見たもん」
春樹は分かりやすい好意の目を見せるが、そういうことに鈍感な彩は困ったような表情を見せて曖昧に微笑み、もう一度ありがとうございますとお礼を言う。
病院生活が長く続いていたため、お年寄りの入院患者からは可愛いと何度も言われていた。いつのまにか言われ慣れてしまって、春樹の言葉は全然彩に響いてはいない。
綾坂彩はいわゆる天然であり、純粋培養の善人なのだ。
「晴野くんの方こそ、男らしくてかっこいいと思うよ」
「え、まじ?! うわあめっちゃ嬉しい!」
相手が喜んでくれると、自分のことのように嬉しくなる。彩は春樹のことを見て、ニコニコと微笑んでいた。
「ねえねえ、これからまたどっか行かない? 俺また奢るからさ」
「お誘いはとても嬉しいんだけど、結構時間が限られてて……実は家族には黙って飛び出してきたの」
「あ、あぁ、そうなんだ……じゃあさ、メアド交換しない?」
「それなら全然構わないよ」
二人はご飯を食べ終わると、手早くメールアドレスを交換してファミレスを出た。
「麻倉朝陽さんのことを教えてくれて、それにご飯までご馳走してくれるなんて本当にありがとね」
「いやいや、困ったときはお互い様だから。朝陽のこと見つけられるの祈ってるよ」
彩はにこりと微笑んで頭を下げた後、もう一度大きなスーツケースをゴロゴロ引いて歩き出した。そしてスマホを取り出して、紫乃に現状報告のメールを打ち込む。
朝陽の所在が分かったこと。今は浜織という町にいるということ。それと朝陽の友達である、春樹という男の子とメアドを交換したこと。
電車の中で一度意識を沈めた後に目を覚ますと、紫乃からの返信がメールボックスに入っていた。内容は彩への感謝の言葉であり、やっぱりそれを見て彼女は嬉しくなる。
自分の胸に手を当てて、祈るように呟いた。
「次は紫乃が頑張ってね。私はあなたのこと、応援してるから」