「もしかしてリモコン分かんなかった?」
「う、ううん。そうじゃないんだけど、なんか電気代とかもったいないかなって……」
「は?つけろよ。暑いじゃん」
たしかにヒロはバイトから帰ってきて汗だくだ。普通に考えれば涼しい部屋で迎えてあげたほうがよかったよね。
でも、だって電気代もそうだけど、ヒロはバイトに行って頑張ってるのに私だけエアコンがある部屋で快適に過ごすのは違うんじゃないかって……。
「いや、そうじゃなくてさ」と、落ち込む私を見てヒロが付け加える。
「お前が暑いだろ。ここ鉄筋だし、部屋の中でも熱中症になるんだから、気にしないでつけろよ」
そうか。ヒロは私のことを気にかけてくれてたんだ。
「もう、ヒロって言葉足らずだよね。暑い部屋にお前がいると思うとバイトも気が気じゃないからエアコンつけて待ってろよって、素直に言えばいいのに」
これは私の声じゃない。あたかも私が言ってるかのように、奏介くんが後ろで口を動かしているのだ。
「黙れ」
もちろんすぐにヒロの睨みが飛ぶ。
「ひどいな。せっかく貸してあげたのに」と、奏介くんが口を尖らせながらヒロが運んできたマットレスを指さした。
会話からして、きっと奏介くんの家から持ってきたものなんだろう。やっぱりというか当然だ。
マットレスを借りてきたということは、昨日ソファーで寝たヒロは相当ムリしていたんだと思う。
だから私はベッドじゃなくていいって言ったのに……。