たしかに私は家に帰るつもりなんてない。今はおばあちゃんの顔を見たくないし、明後日のことを考えるだけでまた鼓動が速くなってくる。

今の私に帰る場所なんてない。でも、でも……。



「うちにいれば」

暗闇に落ちかけていた私を救ってくれるみたいにヒロの言葉が飛んできた。


「別に強制はしないけど、当てもなく野宿できるほど世の中甘くねーよ」

「で、でも迷惑じゃ……」

「迷惑なら電柱に座りこんでる女に声なんてかけねーから」


ヒロの不器用な優しさにまた涙が出そうになる。


本当に私はここにいていいのだろうか。

ヒロを疑う気持ちなんてないけど、今の私はひどくマイナス思考だから、心の中ではあの人たちみたいに厄介者だと思ってるんじゃないかって、考えてしまう。


「まあ、猫を一匹拾ったと思えば、俺にとっては全然大したことじゃねーよ」

「ね、猫……?」

たしかにご飯まで貰って、かなりなついている感じはあるけれど……。


「うちのアパート、ペット禁止だから爪は立てるなよ」

意地悪なヒロの顔に不覚にもドキドキしてしまった。

爪は立てないし、騒がないし、いい子にする。でも、ひとつだけ甘える前に聞かなきゃいけないことがある。



「……彼女は平気なの?」


私は恋愛経験がないから分からないけど、付き合っていれば家にだって出入りするだろうし、ヒロがいくら優しくても彼女がいるのに私を部屋に連れてきたり、〝うちにいれば〟なんて言ったらダメな気がする。