「あんまり見んなよ」
ヒロがちょっと恥ずかしそうにしていて、こんな顔、はじめて見た。
少し胸がきゅんとしたところで、私もヒロが作ってくれた野菜炒めに手を伸ばす。
「……美味しい……」
これはお世辞じゃなくて、本当に。
味なんてなにを食べてもあまり感じることができなかったはずなのに、ヒロが作った料理は口いっぱいに味がする。
一口、また一口とパクパクと箸を進めながら、気づくと瞳から涙が溢れてきた。
「泣くほど旨いならよかったよ」
その言葉に何度も頷きながら、同じご飯をヒロと一緒に完食した。
食べ終わった食器はお礼もかねて私が洗った。部屋の壁にある時計は8時半を指していて、ヒロはくつろぎながらソファーでテレビを見ている。
「私、そろそろ帰るね……」
これ以上、ヒロに甘えられない。
「帰るってどこに?」
「え……」
「お前、家に帰るって顔してないよ」
見透かされてるみたいでドキッとした。