「哉子、サユのこと気にしてたわよ。やっぱりなんだかんだ言っても親子だし、離れてもうすぐ半年になるから、寂しくなったのかもね」


は?冗談はやめて。

母が私のことなんて気にするはずがない。私のことを邪魔者扱いする男と一緒に『子どもなんて生まなきゃよかった』と吐き捨てたセリフは忘れない。

もしかしたら男の機嫌に合わせて言ったことかもしれないけれど、殴られたり蹴られたりするよりも、よっぽどその言葉のほうが痛かった。


もし、少しでも半年の間に謝罪の気持ちが芽生えたのなら、里帰りにこっちに来るなんて言えないはず。


私がまだこんなにも苦しんでるとは知らずに、なんにもなかったかのように、あの5年間がなかったかのように、ノコノコと顔を出せるということは、あのふたりにとって私を傷つけていたことは、それだけ軽いことなのだ。

怒りと憎しみが込み上げてきて、頭がおかしくなりそう。


「……おばあちゃんは来るって聞いた時なんて返事をしたの?」

私の冷えた視線がおばあちゃんへと向く。


「布団もあるし部屋もあるから、こっちはいつでも平気だって言ったわよ」

ドクンッ……。


「久しぶりに家族で集まるんだし、たまにはゆっくり話でも――」

「ふざけないでよっ……!」


私の声に驚いたのか、あれだけうるさかったセミがピタリと鳴くのをやめた。だからなのか、今は扇風機の耳障りな音だけがよく聞こえる。