「サユ。晩ごはんの準備手伝ってくれる?」

買い物から帰ってきたおばあちゃんが部屋のドアをノックした。「うん」と返事をした私は制服から部屋着へと着替える。もちろん肌が隠れる長袖だ。

私は台所に置かれた野菜を洗いながら、おばあちゃんと他愛ない会話をする。


「学校はどう?」

「普通だよ」

「もうすぐ夏休みね」

「うん」

私はただおばあちゃんの質問に短く返すだけ。おじいちゃんは私が生まれる前に他界してるから、顔は遺影でしか見たことがない。

おばあちゃんとの生活にも最近は慣れてきたけれど、心に安らぎのようなものは感じることができずにいる。


作り終わった晩ごはんをテーブルに並べて、おばあちゃんと手を合わせる。

リビングのテレビではバラエティーがやっていたけれど、画面の中の笑い声とは反対に私は黙々とご飯を口に入れるだけ。


おばあちゃんは私が虐待されていたことを知っている。身体の傷痕は見せたことがないけれど、なんとなく察しているとは思う。


だけど、おばあちゃんにとって母は一人娘だし、母はとても気の強い性格をしてるから、おばあちゃんの立場はすごく弱い。

だから、離れて暮らしている私になんの連絡もしてこない母を叱ったりはしないし、私が5年間どんな生活をしていたのか気づいているのに、気づいていないふりをしている。



「甘いね、これ」

庭で採れた真っ赤なトマトを食べながらおばあちゃんが言う。


私は「そうだね」と返したけれど、正直、あれからなにを食べてもあまり味を感じないのだ。