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それから時間は過ぎて、学校は夏休みになっていた。
まだ噂が鎮火していない今1か月以上登校しなくていいのはありがたい。
エアコンがない部屋では蒸し暑くて、窓を開けっ放しにしてもじわりと汗が滲んでくる。
一応扇風機はあるけれど、首が回るたびにカクカクと音を鳴らしていて、ちょっと耳障り。
そんな中、私はテーブルの上でどっさりと出された課題をやっていた。
面倒なことは早めに終わらせたいタイプだし、この数学さえ乗りきれば一区切りつく。
Tシャツの襟元をパタパタとさせながら気休めの風を作っていると……一階で電話が鳴っていることに気づいた。
ちょうどこの部屋の下はリビングだから、電話の音がよく響く。
「はい、もしもし」と、お客さん用の声で受話器を取ったのはおばあちゃん。けっこうというか、だいぶ筒抜け。
たぶん近所の人からかもしれない。よく採れすぎた野菜を分けてくれる人がいるらしいし。
途中まで聞こえていたおばあちゃんの声は、急に大声で鳴き始めた窓の外にいるセミによって遮られる。
そんなに突然思い出したように鳴いて、なにか悲しいことでもあったんだろうか。
私も近所迷惑なほど泣いてみたい。そうしたら少しは昨日も見てしまったあの夢の余韻から抜け出せる気がして。